スルメイカ(日本近海における)豊漁の要因
「スルメイカが豊漁になっている/なる可能性が言われている」要因について、現時点で確認できる知見を整理します。なお、「なぜ確実に豊漁なのか」を裏付ける研究は十分ではなく、「可能性」「仮説」の域を出ない点をあらかじめご承知おきください。
主な要因とその背景
- 海流・水温・海洋環境の変化
- スルメイカの産卵・幼生漂流・成長・回遊には、適切な水温帯や海水の流れ(輸送経路)が重要です。たとえば「ふ化直後の稚イカが海底から浮上し成長しやすい水温帯は約19.5~23℃」とする報告があります。
- 近年、黒潮やその大蛇行、あるいは対馬暖流など海流の変動が起きており、それがスルメイカの回遊・分布・産卵場・餌場の変化に影響を与えている可能性があります。
- 例:2025年9月、福島県相馬沖で「前年の2倍以上」の水揚げがあったという報道があり、その背景として「海水温や海流、餌となる小魚の分布が比較的良くなった可能性」が挙げられています。
- つまり、これまで稚イカ・成イカが育ちにくかった/回遊しにくかった海域で、環境条件が一時的に“好転”した可能性が、豊漁につながっていると考えられます。
- 餌資源・生育条件の改善
- スルメイカは成長期に餌生物(小魚、甲殻類等)を捕食します。餌が豊富であること、生育海域に栄養が届いていることが成功回遊・成長・産卵回帰を支えます。報道でも「餌となる小魚の分布が比較的多かった可能性」が指摘されています。
- 海流・水温変化によって、餌の分布が沿岸近くや漁場に寄った/スルメイカの通り道・成長海域に重なったという仮説もあります。
- 系群(発生年級)の影響・生残率の向上
- スルメイカは寿命が短く(1年程度)とされ、ある年級(同一発生年の群)が多く成長して漁獲可能なサイズになると、その年に豊漁になる可能性があります。報道では「卓越年級」が重なったとの見方もあります。
- また、漁が少なかった・漁場が変わっていた期間があり、その反動で比較的“資源的に回復”した年が出るという可能性もあります。
- 漁獲圧・漁場変動のタイミング
- 漁獲圧(どれだけ獲られたか)・漁業の負荷によって、資源回復の余地が変わります。近年、スルメイカ資源の低迷が長く続いていましたが、漁業・漁業環境・漁場の条件が変わると、資源が“復元”している可能性もあります。
- また、漁場が変動していた(漁船が探す海域が変わっていた)という報告もあり、たまたま漁場の“あたり”が戻った年という見方もあります。
豊漁でも留意すべき点・“なぜ”完全に解明されていない理由
- 報道では「なぜ豊漁なのか、具体的な要因は分からないのが正直なところ」とする水産研究者の声があります。
- 海洋環境・餌資源・回遊・産卵・漁獲管理と、複数の要因が絡むため、単一要因で説明できる状況ではありません。
- 過去には「豊漁かと思ったら翌年には再び不漁になる」といった例もあるため、「一時的な豊漁」である可能性もあります。
- 漁獲量の増加=資源量増加とは必ずしもイコールではなく、回遊の集中・漁獲技術の向上・漁場変化などが漁獲量増として表れる場合もあります。
日本近海で特に注目されている“豊漁のサイン”
- 2025年9月、福島県相馬沖など太平洋側で水揚げが前年の倍以上という報道。
- 前年まで数年にわたって低迷していたスルメイカ漁において、漁獲枠を年度途中で拡大したという事例もあり、漁場関係者にとって「豊漁」と捉えられています。
- 「黒潮大蛇行」が終息に向かった/黒潮の流路が変化して沿岸近くに暖水が戻ったという海洋環境変化が、豊漁要因とされる記事もあります。
今後押さえておきたい視点
- 豊漁として報じられている年に、「次年度以降も同じように漁獲が続くか」「資源量そのものが改善しているか」という点を、資源評価・漁獲データ・海洋環境データでチェックすることが重要です。
- 漁業者・漁協としても「豊漁=単純に良い」ではなく、漁獲過多・資源枯渇の逆リスクを見ており、資源管理の観点から慎重な見方があります。
- 消費者・流通側でも「値段が下がる」「流通が増える」という反応がありますが、持続可能性を考えると「なぜ豊漁なのか/漁場が将来どう変わるか」を知ることが大切です。
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