鳳凰山(鳳凰三山:薬師岳・観音岳・地蔵岳)は南アルプス北部に位置し、甲斐駒ヶ岳・仙丈ヶ岳と並ぶ人気の高山ですが、
この山域にも確実にクマ(ツキノワグマ)が生息しています。
以下で、鳳凰山におけるクマの生息実態・出没傾向・危険性を、現地データ・行政情報・生態的観点から詳しく解説します。
■ 1. 鳳凰山に生息するクマの種類
- 鳳凰山にいるのはツキノワグマ(Ursus thibetanus japonicus)。
- 北海道にいるヒグマとは別種で、本州・四国に広く分布します。
- 成獣の体長は1〜1.5m、体重は50〜120kg前後。
- 臆病で人を避ける性格ですが、驚かされた時・子連れ・餌不足時には攻撃的になることがあります。
■ 2. 鳳凰山周辺のクマ生息状況
● 南アルプス全体がツキノワグマの安定生息域
環境省・山梨県・長野県の調査(南アルプス生態系モニタリング)によると、
鳳凰山〜甲斐駒ヶ岳〜仙丈ヶ岳一帯はツキノワグマの安定した繁殖分布域です。
つまり「たまに来る」レベルではなく、常時生息している地域にあたります。
● 鳳凰山域での具体的な出没報告
- 山梨県南アルプス市・韮崎市の公表資料では、
鳳凰山登山口(夜叉神峠・青木鉱泉・ドンドコ沢沿い)周辺でのクマ目撃情報が毎年発生しています。 - 特に青木鉱泉〜ドンドコ沢登山道付近は、
夏から秋にかけてツキノワグマの足跡・糞の報告が複数。 - 2023年には夜叉神峠登山口付近でクマが撮影された事例もあり、
山麓域では人里に近い出没が増加傾向にあります。
■ 3. クマが「多い」とされる理由
● 理由①:豊かな森林環境と餌資源
- 鳳凰山の標高1,200〜2,500mの範囲にはブナ・ミズナラ・コナラなどのドングリ系広葉樹林が広く分布。
- さらに、夏にはサルナシ・ヤマブドウ・ベリー類など果実も豊富。
→ ツキノワグマにとって理想的な採餌環境です。
● 理由②:人間活動との距離が中途半端
- 鳳凰山は都市(甲府盆地)に比較的近く、アクセスしやすい一方で、
山中は深く静かで、人間の影響が届きにくい「半自然域」。 - この「中間地帯」はクマが最も好む環境であり、
人の出入りが増えるほど遭遇リスクも上がります。
■ 4. 鳳凰山での危険性と実際のリスク
危険要素 | 詳細 |
---|---|
登山口付近(夜叉神峠・青木鉱泉) | 出没多数。足跡・糞・爪痕の報告あり。人が多くても夜間や早朝は活動的。 |
登山道(ドンドコ沢・中道) | 夏〜秋にかけて採餌中のクマが通過することがある。鈴などで事前警告が有効。 |
稜線・山頂部(観音岳・地蔵岳) | 樹林限界を超えるため、出没はほぼなし。ただし早朝・夕方の移動中は注意。 |
人的被害 | 鳳凰山周辺での直接的な襲撃事故は近年報告なし。ただし目撃は頻繁。 |
● 危険度総評
→ 中~やや高。
「遭遇する可能性は確実にある」レベルで、
「遭遇しても冷静に対処すれば被害は防げる」レベル。
■ 5. クマの活動傾向(季節別)
時期 | 行動傾向 | 注意ポイント |
---|---|---|
春(4〜6月) | 冬眠明けで空腹。山麓での採餌多い。 | 登山口・林道での遭遇が多い。 |
夏(7〜8月) | 果実・昆虫を求めて広く行動。 | ドンドコ沢登山道沿いでの痕跡多発。 |
秋(9〜10月) | 冬眠前の食い溜め期。行動範囲が拡大。 | 鳳凰小屋〜青木鉱泉ルートで要警戒。 |
冬(11〜3月) | 冬眠期。出没ほぼなし。 | 登山者の活動も少ない。 |
■ 6. 鳳凰山でのクマ対策(実践的)
対策 | 内容 |
---|---|
音を出す | クマ鈴・ラジオ・会話などで存在を知らせる。静かな歩行は危険。 |
早朝・夕方の行動を避ける | クマの活動時間帯。特に登山口付近では避ける。 |
食料管理を徹底する | テント泊では食料・ゴミを密封し、外に出さない。匂いを残さない。 |
痕跡を見たら引き返す | 糞・爪痕・倒木掘り返しなどは「警告サイン」。 |
単独登山を避ける | 複数人なら音も出やすく、遭遇率が低下。 |
地元情報を事前確認 | 山梨県南アルプス市・韮崎市HPで「クマ出没情報」をチェック。 |
■ 7. 現地関係者・自治体の姿勢
- 南アルプス市は「ツキノワグマとの共存・棲み分け」を基本方針としつつ、
登山者向けに**「クマ鈴携帯」「ゴミ持ち帰り」「餌付け禁止」**を強く呼びかけています。 - 鳳凰小屋など山小屋スタッフも、クマの行動に注意し、登山者に警戒を促す掲示を行っています。
■ 8. まとめ
項目 | 内容 |
---|---|
生息種 | ツキノワグマ(ヒグマではない) |
生息状況 | 鳳凰山一帯に安定生息(通年確認) |
出没傾向 | 山麓・登山口で頻発、稜線上では稀 |
危険度 | 中〜やや高(適切な対策で回避可能) |
事故事例 | 近年はなし(ただし目撃報告多数) |
登山者対策 | 音・匂い管理・行動時間の工夫・情報確認 |
■ 結論
鳳凰山(鳳凰三山)は確実にツキノワグマの生息地であり、
特に山麓や樹林帯では**遭遇の可能性がある「クマの山」**です。
しかし、正しい知識と行動(音・時間・食料管理)を守れば、
危険は大幅に回避できる山域です。
つまり、
「鳳凰山はクマがいるが、危険な山ではない。
ただし“いないと思うこと”が最も危険である。」
というのが現実的な評価です。
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