オーバーツーリズムについて体系的に詳しく解説します。
■ 1. オーバーツーリズムとは
**オーバーツーリズム(Overtourism)**とは、観光客が特定の地域や観光地に過剰に集中することで、住民生活・地域環境・観光資源・文化に悪影響を及ぼす現象を指します。
- 定義(UNWTO):観光地の「受け入れ可能な容量(Carrying Capacity)」を超えて観光客が訪れる状況
- 影響:騒音・交通渋滞・ゴミ問題・文化財や自然破壊・住民の生活不便・地価上昇など
- 社会的課題:住民と観光客の摩擦、観光資源の劣化、地域経済の一部偏重
UNESCOも、オーバーツーリズムを社会・文化・環境に対する悪影響を生む観光現象として注意喚起しています。
■ 2. オーバーツーリズムの原因
- 観光客の集中
- 人気都市や観光地(京都、ヴェネツィア、バルセロナなど)に短期間で大量の観光客が集中
- 格安航空・LCCの普及
- 海外旅行が手軽になり、特定シーズンに大量の旅行者が押し寄せる
- SNS・メディア効果
- InstagramやYouTubeで情報が拡散され、「行きたい場所」に観光客が殺到
- 短期賃貸(Airbnbなど)の増加
- 住宅が観光用に転用され、地元住民の居住環境に影響
■ 3. オーバーツーリズムの影響
分野 | 具体例 |
---|---|
住民生活 | 騒音・交通渋滞・生活費高騰・住宅不足 |
文化・歴史資源 | 世界遺産や史跡の損傷、伝統文化の消費化 |
環境 | ゴミの増加・自然環境の劣化・CO₂排出増加 |
経済 | 一時的な観光収入増はあるが、長期的には地域経済の偏りや格差 |
■ 4. 世界の代表的なオーバーツーリズム事例
① ヴェネツィア(イタリア)
- 問題:クルーズ船や日帰り観光客の大量流入による運河・住民生活の圧迫
- 対策:2024年に「ヴェネツィアアクセス料」を導入し、日帰り観光客から一人あたり5ユーロの課金(試験導入済)【出典:hospitalityinvestor.com】
- その他対策:大型クルーズ船の入港制限、騒音規制
② バルセロナ(スペイン)
- 問題:短期賃貸の急増で住宅不足・地価上昇・住民の不満
- 対策:2029年以降、全ての観光向け短期貸し出しを禁止予定【出典:rentalsunited.com】
③ マチュピチュ(ペルー)
- 問題:世界遺産の遺跡に年間多数の観光客が集中、自然環境や遺跡保護に影響
- 対策:2025年より季節別に最大収容人数を設定、日ごと・時間帯ごとの入場制限を導入【出典:salkantaytrekking.com】
■ 5. オーバーツーリズムへの対応策
- 入場制限・予約制
- 世界遺産や人気観光地での人数制限、時間帯予約
- 課金制度
- ヴェネツィアのような観光税やアクセス料で、観光客分散と資金確保
- 短期賃貸規制
- 住民向け住宅の確保と地域生活保護
- 観光客分散策
- 観光シーズンの平準化、地方観光地への誘導
- 情報提供・マナー教育
- SNSや観光案内で観光客の行動ルールを周知
■ 6. まとめ
- オーバーツーリズムとは:観光客過多によって地域社会・文化・環境に悪影響を及ぼす現象
- 原因:観光集中、LCC・SNSの普及、短期賃貸の増加
- 影響:住民生活の圧迫、文化・歴史資源の損傷、環境悪化
- 対策例:
- 入場制限(マチュピチュ)
- 課金制度(ヴェネツィア)
- 短期賃貸規制(バルセロナ)
- 観光分散・教育施策
オーバーツーリズムは**「観光収入」と「地域住民・文化保護」のバランス問題であり、今後は持続可能な観光(サステナブルツーリズム)**の推進が重要です。
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