患者から医療従事者へのハラスメント、いわゆる「ペイハラ」と、一般的な「カスタマーハラスメント(カスハラ)」には多くの共通点がある一方で、背景や対応の難しさ、社会的性質において明確な違いがあります。
—
まず、両者に共通しているのは、「サービスを受ける立場にある人が、提供する側に対して不当な言動を行う」という点です。これには暴言、暴力、過度なクレーム、不当要求、セクハラ、ネット上での誹謗中傷などが含まれます。どちらも、サービス提供者の心身に強いストレスを与え、離職やバーンアウトの原因となる深刻な問題です。
しかし「ペイハラ」と「カスハラ」の間には、発生する場面や対応の在り方に根本的な違いがあります。
ペイハラは医療機関、たとえば病院や診療所、介護施設などで発生します。対象は医師、看護師、薬剤師、介護職といった医療専門職であり、加害者となるのは患者本人やその家族です。ペイハラの特徴的な点は、加害者が必ずしも「悪意のあるクレーマー」であるとは限らないことです。患者は病気や障害により精神的・身体的に弱った状態にあり、不安や恐怖、痛みなどから感情が高ぶり、結果として攻撃的になってしまうケースも多くあります。
一方で、カスタマーハラスメントは、主に商業施設やサービス業、コールセンターなど、一般企業の接客・販売の現場で起こります。店員やカスタマーサポート担当者が対象であり、加害者はサービスを受ける一般顧客です。カスハラの場合、相手は比較的冷静でありながら、自分が「客」であるという立場を利用して、明確に優位に立とうとする行為が目立ちます。理不尽な要求や威圧的態度、過度な謝罪の要求など、「サービスを受ける側の権利」を拡大解釈するケースが多いのが特徴です。
対応面においても、ペイハラはより慎重な姿勢が求められます。というのも、医療は命や健康に関わる不可欠なサービスであり、「患者の治療を拒否する」「関係を断つ」といった対応が簡単にはできないからです。また、医療には倫理的な側面も大きく、どんな患者に対しても平等な医療提供が原則とされています。そのため、明らかなハラスメントであっても、すぐに強硬な対応を取ることが難しい現実があります。
これに対してカスハラは、商品やサービスの提供を断る、退店を求める、あるいは出入り禁止にするといった対応が比較的しやすい領域です。企業側が明確な基準やマニュアルを持ち、毅然とした対応をとることで対応が可能な場面が多いです。
もう一つ重要な違いは、ペイハラは「弱者によるハラスメント」であることがある点です。加害者である患者や高齢者が「守られるべき存在」とされる一方で、実際にはその立場を利用した理不尽な行為が見逃されてしまうケースも少なくありません。医療従事者が訴えづらく、我慢せざるを得ないという構造が、問題の深刻化を助長しています。
このように、ペイハラとカスタマーハラスメントは表面的には似ていても、医療という特殊な現場性、患者という立場の複雑さ、倫理的な配慮の必要性といった点で大きく異なります。その違いを理解したうえで、両者それぞれに適した対策や社会的認知が求められています。特にペイハラについては、現場任せではなく、医療機関全体、さらに行政や社会全体の取り組みとして考えていくことが必要です。
ペイハラとカスハラの違いは?同じじゃない?

コメント