日本の制度を軸に、ガソリン税のメリットとデメリットを整理します。必要な背景(税率や最近の制度動向)も要点だけ添えます。
まず前提(日本のガソリン税の中身)
- 名称は揮発油税+地方揮発油税の合計で、現行は1Lあたり計53.8円(本則28.7円+暫定25.1円)。このほかに**消費税(10%)が価格全体に課税され、さらに石油石炭税(ガソリン分は2.8円/L)**も別に上乗せされます。
- 2025年は「補助金による価格支援」や「暫定税率の扱い」をめぐる議論が続いており、暫定25.1円を廃止する合意形成が与野党で進んだとの報道もあります(最終的には国会審議と法改正が必要)。
- 国の歳入規模としては、揮発油税が約1.98兆円(令和7年度予算ベース)。
メリット(長所)
- 受益と負担の対応(ユーザー・ペイ原則)
走れば走るほど多く負担する形なので、道路利用や車利用に伴う費用を利用者が広く分担できます。かつては道路特定財源、現在は一般財源ですが、引き続き公共サービスの安定財源になっています(約2兆円規模)。 - 温室効果ガス・大気汚染の外部コストに価格シグナル
燃料に課税すると「燃費の良い車や公共交通へのシフト」「無駄な走行の抑制」を促す方向に働きます。各国のガソリン価格差の主因は税制で、日本も税が価格形成に効いていることが政府白書でも示されています。 - 徴税コストが低い・安定的に入る
元売・小売段階での課税/価格転嫁で広く薄く徴収でき、事務コストが相対的に小さいのが利点です(日本では長年、固定額課税+消費税で運用)。 - 価格変動の緩衝策と併用可能
急騰時は補助金や税率条項(トリガー)など政策ツールを重ねて使いやすい設計です。実際、2025年5月から新たな燃料価格支援策が稼働しています
デメリット(短所)
- 逆進性・地域間の不公平
所得が低い層や車依存の高い地方ほど負担感が大きい——典型的な逆進税の性格です。ガソリン税は「誰でも同じ額/L」を払うため、所得に対する負担率は低所得者ほど高くなりがちです(白書の国際比較でも、価格差の主因は税であることが示唆)。 - “二重課税”との受け止め
ガソリン税(定額)を含んだ販売価格に**消費税(割合税)**がさらにかかるため、「税に税をかけるのは不公平」との批判が根強い。制度上は物品価格への付加価値税という整理ですが、受け止めとしての不満は大きい論点です。 - 暫定税率(25.1円)の恒常化への不信
本来は一時的な上乗せだった部分が長期化しており、政策の透明性・信頼性の面で批判があります。2025年は廃止に向けた与野党合意が報じられるなど、制度見直しの揺れが続いています。 - 価格急騰時の家計・物流直撃
エネルギー高騰期には税が“固定的なコスト”として残るため、家計や物流コストを押し上げ、インフレ圧力を強める側面があります。このため政府は補助金・激変緩和措置での対応を繰り返してきました。 - トリガー条項の運用難
「全国平均160円超が3か月続けば暫定税率を外す」といった発動条件は、市場の買い控えや混乱を招く懸念も指摘され、2011年以降“凍結”が続いてきました(制度趣旨は理解されるものの、実務運用が難しい)。 - EV普及で税基盤が痩せる
走行エネルギーが電力に移ると、燃料課税だけでは道路財源が先細り。将来的には走行距離課金(ロードプライシング)や車体課税の組み替えなど、構造的な見直しが必要になります(政府資料もエネルギー価格の国際比較と税制の影響に言及)
こんなとき、どう考える?(政策デザインのヒント)
- 物価高対策を優先:一時的には補助金や時限的な税率調整で緩和。恒常化は財政負担・市場歪みを招くため出口戦略が不可欠。
- 公平性を高める:逆進性対策として、地方・低所得世帯向けの現金給付/交通代バウチャーの併用を検討。
- 環境目標と整合:燃費基準・カーボンプライシングと一貫した価格シグナルに。ディーゼル・EV・公共交通の税制とのセット設計が重要。
- EV時代の財源確保:中長期的には、燃料課税一本足ではなく走行距離ベースやピーク時混雑課金などのミックスへ。
まとめ
- ガソリン税は「広く薄く、価格シグナルで行動を変える」点が強み。一方で逆進性・暫定税率の恒常化・急騰期の痛税感が弱点。
- 2025年時点では、補助金継続や暫定税率の見直しが大きな論点。制度の目的(財源・公平・環境)に合わせ、短期は物価対応、長期は税体系の組み替えが鍵になります。
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