結論(先に要点)
- クマは短距離で非常に速く走れる一方、長時間の持久力(スタミナ)も持っている──つまり「全力で走れば逃げ切れる」はほぼ成り立ちません。種や状況によるが、短距離(ダッシュ)ならクマは人間よりはるかに速く、地形や機動性でも人間より有利です。
- 実務的には 「クマが来たら走って逃げる」はNG。走ると追跡本能を刺激し、かえって危険を高めます。
1. スピード(短距離ダッシュ)の実態
- 観察記録からクマの短距離最高速度は おおむね時速40〜60 km 程度とされます(種・個体差・測定条件で幅がある)。
- 比較すると:
- 一般の成人が長く維持できる速さは 8–15 km/h 程度(ジョギング〜速歩〜短距離の有酸素ペース)。
- トップアスリートの短距離最高速(100mでのピーク)は 約40–45 km/h 程度(非常に特殊な例)。
- したがって、ほとんどの人は平地でもクマに追いつかれる。しかもクマは急加速に優れ、荒れた地形でも素早く動けます。
2. スタミナ(持久力)はどうか
- 「スタミナ」をどう定義するかで答えが変わります。重要なのは次の2側面:
- 短時間での高出力持続(短いダッシュの継続):クマは短〜中距離で高速度を出し、数十〜数百メートルの追跡は十分可能。人を捕らえるにはこれで十分です。
- 長時間の移動能力(耐久):クマは採食や移動で1日あたり数〜数十キロ移動することが普通で、季節的な移動やメスの移動、ホッキョクグマの長距離泳のように持久的な移動力も高い。
- 結論:短距離の瞬発力+日常的な長距離移動力の両方を持つため、遭遇場面で「スタミナ不足で追いつかれる心配はない」とは言えません。
3. 地形・状況での不利さ(人間側)
- 森林・藪・急斜面・ぬかるみ等の自然環境では、人の走行能力は大きく落ちる一方、クマはそれらを苦にしません(ツキノワグマは木登り、ヒグマは荒地での機動が得意)。
- 夜間や視界が悪い場所でも、クマは嗅覚・聴覚に優れ、追跡・接近が容易です。
- つまり「見かけてすぐに走って逃げれば助かる」とは現場では成り立たないことが多い。
4. 「走るとどうなるか」——心理的・行動的理由
- 急に走るとクマは「動くものを追う」本能や興奮反応を示すことがあり、追跡(追いかける)行動を誘発します。
- 多くのガイドラインが「決して走らない(背を向けて逃げない)」と明記しているのはこのためです。
- また、走ることによって転倒や道を外れるリスクが上がり、かえって致命的な状況を招きます。
5. 例外はあるか?
- 平坦で開けた舗装路で、非常に速い人(スプリンター)が短距離で逃げる理論上の可能性はゼロではありませんが、自然環境では実用的でない。また、そもそも走ることで追跡を招く危険があるため推奨されません。
- また、クマが年老いて病気の個体や負傷個体であれば逃げ切れる可能性は高くなりますが、それは偶然で頼れる戦術ではありません。
6. 「ではどうするか?」──現場での推奨アクション
- 走らない(絶対)。背を向けず、急に走り出さない。
- 落ち着いてゆっくり後退し、可能ならクマとの距離を作る。視線は外しすぎないが直視は避ける(挑発に見える場合あり)。
- 大きく見せる(上着を広げる、グループで固まる)・低い声で話すなどで自分たちの存在を知らせる。
- ベアスプレー(熊よけスプレー)を携行している場合は、すぐに使える状態にしておく。短バーストで「雲」を作り、熊を後退させる。
- 子連れの母熊に出会ったら最大級に警戒。子熊に近づかない、母熊がいる方向へは絶対行かない。
- 攻撃が始まった場合は種や状況で推奨が異なる(ヒグマ系の防御的攻撃では「伏せる(play dead)」が有効な場合、ブラックベア系の捕食的攻撃では反撃が推奨されるケースがある)──現場では事前に該当地域の公的ガイドを確認しておく。
7. 要点まとめ(短く)
- クマは短距離で非常に速く、人間が走って逃げられる可能性は極めて低い。
- クマはまた長時間の移動・泳ぎも得意で、スタミナ面でも侮れない。
- 走るのは逆効果。遭遇時は落ち着いて距離を取り、ベアスプレーや状況に応じた安全行動を取ること。
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