クマはドングリ(=カシ類などの「どんぐり」=オークの実)を好むことが多いです。特に秋の「餌が豊富で手に入りやすい」時期に求め、冬に向けて脂肪を蓄える重要な食料になります。以下で理由を栄養・行動・生態の観点から詳しく説明します。
1) 何故クマがドングリを好むのか(栄養的理由)
- ドングリは「量あたりのエネルギー密度が高い」食物です。炭水化物(でんぷん)や不飽和脂肪、ある程度のタンパク質を含み、噛んで消化できるため短時間で多くのカロリーをとれます。
- 多くのクマ種(ツキノワグマ、アメリカクロクマ、ヒグマなど)は冬眠・樹脂期に向けて**短期間で大量に体脂肪を蓄える(過食=hyperphagia)**必要があり、入手しやすく高カロリーなドングリは理想的な「脂肪貯蔵食」です。
- 秋に林で大量に落ちるため、採集効率が高く、探索コスト(1単位エネルギーあたりの獲得コスト)が低い──これが重要です。
2) 季節行動との結びつき(なぜ秋が重要か)
- ドングリの大量供給は「秋(9–11月)」に集中します。この時期、クマは冬眠前のファットストアリング期に入るため、エネルギーを効率よく積み増せるドングリを重点的に食べます。
- つまり「ドングリがある → クマはそこに集中する → 体重増加が効率的に進む」という行動経済的メリットがあります。
3) ドングリの持つ「難点」とクマの対応(渋味=タンニン)
- ドングリには**タンニン(渋味成分)**が含まれ、個体や樹種によっては苦くて消化しにくく、過剰に摂ると消化不良や栄養吸収阻害の原因になります。
- クマはこれを回避/緩和するために:
- 樹種選別(タンニンが少ない種や熟度の高いドングリを選ぶ)
- 熟した実や虫食いの実を好む(虫が入るとタンニンが低下する場合がある)
- 多様な食物を混ぜて食べることでタンニンの影響を薄める
- 腸内微生物の働きや高摂取に伴う生理的適応である程度処理できる(種による差はある)
- 結果として「全てのドングリが等しく好まれる」わけではなく、クマは経験的により食べやすい個体/種を選びます。
4) 種や地域差
- ツキノワグマ(日本)、アメリカクロクマやヒグマ(北米・大陸)といった異なるクマ種は、共通してドングリなどの堅果(mast)を重要な秋の食料とします。ただし、好みや依存度は地域の植生(どのオーク種が多いか)や他の餌資源の有無によって変わります。
- 例えばブナ・クルミなど「他の堅果」が豊富な地域ではドングリの比重が下がることもあります。
5) 生態系的・社会的な影響(人里への出没と紐づく理由)
- 大豊作年(mast year)ならクマは山で豊富なドングリを食べて済みますが、山の木の実が不作の年はクマが代替食(畑の作物、果樹、生ゴミ、鶏舎など)を求めて人里に下りてくる確率が上がります。
- そのため、ドングリの豊凶はクマの移動・出没パターンや人間との衝突リスクに直接関係します(「ドングリが少ない → クマが里に来る」)。これが自治体の出没警戒や被害対策に結びつく理由です。
6) 行動戦略(採餌のしかた)
- クマはドングリを「集めて運ぶ」「隠す(リスのように貯蔵する)」ということは基本的にしません(堆積を意図的に保存する行動はそれほど一般的ではない)。むしろ「その場でたくさん食べる」ことで短期間に体脂肪を作ります。
- 採餌場所は斜面の広いオーク林や落ち葉の溜まり、木の根元周辺など。個体は記憶を使って良い採餌スポットへ戻ることがあります。
7) 人間側の対策(ドングリ関係でできること)
- ドングリの有無そのものは自然条件だが、結果的にクマが人里へ来るのを抑える対策は:
- 果樹や畑の早めの収穫・落果回収(人里の「別の餌」を減らす)
- 生ゴミ・飼料の徹底管理(密閉保管・夜間の屋外放置禁止)
- 電気柵や防護柵の設置(果樹園・養鶏場など)
- 森林・里地のモニタリング:大凶作年には警戒を強める(自治体の出没情報に注意)
これらはドングリの豊凶に起因する里への降下を抑える助けになります。
8) まとめ(ポイントだけ)
- ドングリはクマにとって「秋の重要な高エネルギー食」──クマは好んで食べる。
- 理由は「高カロリーで入手しやすく、冬眠前の脂肪蓄積に最適」だから。
- ただしタンニンの存在や樹種差があり、クマはより食べやすい実を選ぶ/他の餌と組み合わせて食べる。
- 山のドングリが少ない年はクマが人里の作物やゴミなどに手を出しやすくなり、人とクマの衝突リスクが上がる──これが管理上の重要な点です。


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