北海道でヒグマ(エゾヒグマ)が「増えた/人里に出てくるようになった」原因を、北海道に特有の事情を中心に、最新のデータや報道・研究を根拠に分かりやすく整理します。まず結論を一言で:
北海道でヒグマが目立つようになったのは「個体数・分布の長期的増加」+「餌資源の変動(山の実・サケなど)の不安定化」+「里山・土地利用の変化(過疎化・耕作放棄)」+「人為的誘因(ゴミ・農作物・観光)と管理体制の課題」が同時に重なっているためです。
要点の早見表(先に把握したい方向け)
- 現状データ:北海道の推定個体数は、2023年時点で中央値約 11,661 頭(幅あり)。近年の目撃・事故も増加傾向。
- 主な原因(複合):
- 個体数の回復・分布拡大。
- 山の餌(堅果・サケ)の不作や減少 → 人里への移動。
- 過疎化・耕作放棄で「緩衝地帯」が消失。
- 人為的誘因(生ごみ・農作物・観光地の放置物)とヒグマの「慣れ」。
- 管理の課題(狩猟者の高齢化・制度運用の困難)
1) 個体数の回復と分布拡大 — 母数が増えれば出没も増える
長期的に見ると、北海道のヒグマは過去数十年で個体数・分布域が拡大してきました。県の推定では 2023年時点の全道推定個体数中央値は約11,661頭とされ、一定の個体数が維持・拡大していることが分かります。個体数が多くなると、山里の境界付近での出没や人との遭遇は相対的に増えます。(北海道庁)
背景要因:捕獲抑制や保護的な管理方針の影響、かつての過剰駆除後の回復など、法制度・管理の歴史的変化も影響しています(地域ごとに差あり)。
2) 餌資源の変動(堅果の凶作・サケの不安定) — 食料不足で人里へ
ヒグマは雑食で、時季ごとに木の実(ドングリ・ブナ等)、ベリー、昆虫、時にサケなどを主食にします。近年は次のような問題が起きています。
- 堅果(ドングリ・ブナ果)の豊凶変動:年によって大凶作となる年があり、その年は山中の天然餌が不足するため、ヒグマが人里の果樹・畑・ゴミに向かいやすくなります。研究・自治体の解析でも「堅果不作年と人里出没の増加」が一致する事例が報告されています。
- サケ資源の変化:世界的な海水温上昇などで沿岸・河川のサケ資源が減少した地域があり、とくに知床など一部地域では「サケ不足で子グマの餓死が増えた」と報じられました。サケが確実に主食になっている地域・個体群と、あまり食べない群とがあり地域差はありますが、海由来の栄養源が減ることは個体群の生存や行動に影響します。
結果として「山で得られる自然の食べ物が不足→人里の餌(農作物・ゴミ等)に頼る個体が増える」現象が強まっています。
3) 過疎化・耕作放棄・林相変化 — 人とクマの境界があいまいに
北海道の地方部では人口減少・高齢化が進み、里山や農地の手入れが滞るケースが増えています。すると:
- 以前は人の手が入っていた「緩衝地帯(畑・里山)」が荒れ、ヒグマにとって移動しやすく・利用しやすい空間になりやすい。
- 空き家・放置果樹・管理されないゴミ捨て場などが「人里の餌場」を新たに作ってしまう。
この「人の手が届かない空間の拡大」が、人里との接点を増やし、遭遇リスクを高めています。
4) 人為的誘因(生ごみ・農作物・観光地の残飯)とヒグマの慣れ
観光客の増加や都市近郊でのアウトドア活動の盛り上がり、適切に管理されないゴミ置場、収穫前の作物などはヒグマを人里に誘引します。繰り返し餌を得る経験をした個体は「人を恐れなくなる(慣れ)」ため、積極的に集落やゴミ置き場、車庫などに侵入するようになります。2023〜2024年は目撃通報が急増した地域も多く、集落での遭遇が増えています。
5) 管理体制・狩猟の現実的困難(高齢化・人手不足)
日本全体の傾向ですが、地域の野生動物管理は多くを**レクリエーション的狩猟者(地域のハンター)**に頼ってきました。近年は狩猟者の高齢化や後継者不足、厳しい銃規制や補助体制の脆弱さが問題になっています。これにより「人的コントロール能力」が低下し、迅速な個体管理が難しくなっています。報道ではこの点が大きな課題として指摘されています
6) 気候変動の間接的影響
気候変動は堅果の豊凶サイクルやサケの回帰、植物の果実成熟時期を変え、生態系のタイミング(フェノロジー)をずらします。これが餌資源のタイミングミスマッチを生み、ヒグマの行動様式や繁殖成功率に影響を与え得ます(長期的・複合的要因)。
北海道で特に注目される実例(報道・研究から)
- 目撃と人身事故の増加:2023〜2024年にかけて道内での目撃通報が増え、短期間に多数報告が寄せられる日もありました(例:2024年に短期間で1000件超の通知があった報道など)。
- 子グマの餓死とサケ減少:一部地域(知床や道東)でサケの回帰不良が報告され、ヒグマの繁殖成功にも影響が出ているとの報告。
実務的な対策(現場・自治体で効果が期待されるもの)
原因が複合的なので対策も多層的に行う必要があります。北海道で実際に議論・実施されている対策を含めて列挙します。
- 餌(誘因)を徹底して減らす
- ゴミの完全閉鎖(耐熊ゴミステーション)、夜間回収、放置果樹の撤去、果樹園や畜舎の電気柵化
- 地域の監視・情報共有の強化
- 早期目撃通報システム、ハザードマップ、SNSや自治体ページでの周知、夜間パトロール強化。
- 個体管理の制度改善
- 捕獲・選択的駆除の実施(人命・生活被害が重大な場合)、狩猟者支援(若手育成・補助金・安全教育)。一部自治体では法律運用の見直しも進みつつあります。長期的な生息地管理
- 里山の再生(広葉樹復元、間伐)、河川環境の改善、海産資源回復の支援など生態系側の回復策。
- 住民教育と観光管理
- ハイカー・観光客向けの注意喚起、飲食物管理の徹底、観光地での耐熊設備整備、非常時の連絡手順の周知。
終わりに(まとめと政策的示唆)
- 北海道でヒグマが「増えた」「人里へ出るようになった」のは単一原因ではなく、個体数増加+餌資源の不安定化(堅果・サケ)+人里側の環境変化(過疎化・誘因)+管理力の限界という複合要因の結果です。
- 短期的に最も効果が期待できるのは「人里側の誘因排除(ゴミ管理・電気柵等)」と「目撃情報の即時共有・対応体制の強化」。中長期的には「里山・河川・海の生態系回復」と「持続可能な個体管理体制(若手ハンター育成や行政の役割強化)」が必要です。


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