「明り/光そのものがクマを確実に遠ざける・引き寄せるとは言えない」**です。光は場合によって「 deterrent(遠ざける効果)」「attractant(誘引要因)」「ほとんど無効」のいずれにもなり得るので、光だけに頼るのは危険です。以下で理由と実務的な対策を詳しく説明します。
1) クマの行動特性(光への反応が一律ではない理由)
- 種や個体差が大きい:日本で問題になるのは主にツキノワグマ(Asian black bear)です。個体ごとに臆病なものも好奇心旺盛なものもおり、光に対する反応は一定ではありません。
- 状況依存:空腹で強い餌(落果、生ごみ、飼料、家畜の残飯など)がある場合、光の不快さより“餌への動機”が勝って近づくことがあります。逆に、人の気配(音・匂い)が強く「危険」を感じれば光があっても避ける場合があります。
- 時間帯・活動パターン:クマは季節や餌の状況で昼間に活動することも夜間に活動することもあります。夜行性に近い個体は光に敏感な場合もありますが、慣れた個体は無視することもあります。
2) 光が「クマを誘引する」可能性があるケース
- 光に集まる昆虫 → 昆虫を目的に近づく間接誘因:街灯や屋外ライトに多くの夜行性昆虫が集まり、それを目当てに小動物が来ることがあります。クマが直接昆虫を目的にすることは稀でも、昆虫で集まる小動物(鳥・ネズミ等)の匂いや痕跡がクマを引き寄せる可能性は否定できません。
- 光がある場所に「人の残飯や食べ物」がある場合:夜間に明るい場所=焚き火跡、BBQ、出しっぱなしのゴミがある、と学習した個体は光を「餌場の目印」として覚える可能性があります。
- 好奇心の強い個体:珍しい明かりや突然の点滅を「何だ?」と確かめに来るクマもいるため、光源が直接的な誘因になることがあります。
3) 光が「クマを遠ざける」可能性があるケース
- 人が常にいる・活動している明るいエリア:人の存在を示す継続した照明(軒先の灯り+人の生活音)があると、臆病な個体は近づきにくくなります(=間接的な抑止)。
- 強烈で不快な点滅光やフラッシャー:市販の野生動物忌避ライトやフラッシュ装置(不規則に点滅するライト)は一時的に動物を驚かせて離れさせることがある。ただし学習により効果が低下する可能性あり。
- 夜間の視認性向上:ライトで人や物の存在を可視化することは、クマにとって「人が近い」ことを知らせる役割をし、近づきにくくする場合がある。
4) 実務的アドバイス(現場で何をすべきか)
重要:光だけに頼らない。光は補助策と考える。
家庭・集落・畑周辺
- 餌(誘引源)を絶つのが最優先
- 生ごみ・ペットフード・飼料・落果は屋内または施錠できる容器へ。光よりこちらが圧倒的に効果的。
- 照明の賢い使い方
- 玄関周り・倉庫・飼料庫は常時点灯や人感センサーでライトアップしておくと「人の気配」を示せる。
- 一方で、林縁に強い光を照らし続けると昆虫が集まり、それが間接的に餌の匂いを引き寄せるリスクもあるため、光を林内へ向けっぱなしにするのは避ける。
- 人感(モーション)ライトは有効。人や動物が近づいたときだけ点灯し、驚かせて離す効果が期待できる。
- 点滅フラッシャーは“短期”の抑止に
- 一時的な出没(数日の集中発生)には、点滅するフラッシャーや音+光を組み合わせた装置が抑止に役立つことがある。ただし長期使用で慣れる可能性あり。
キャンプ・登山
- 明り=安全と思わないこと
- ライトを焚いても食べ物を外に置くな。食べ残しはすべて密閉保管。
- ヘッドライトや懐中電灯の使い方
- 夜間に人が動くときはライトをつけて歩くと、クマに気付かれやすく「驚かす遭遇」を避けられる。突発的な対面を避けるのが重要(=見つけてしまう前にクマに気づかせる)。
- 光で距離を稼ごうとしない
- 夜間に走って逃げる/ライトを振り回すのは逆効果。光はあくまで視認用・警戒用。
道路沿い・公共空間
- 街灯があること自体がクマの侵入を防ぐ強い対策になるとは限らないが、街灯+人の生活圏管理(ゴミの管理等)があれば効果的。
5) 具体的な推奨セット(ベストプラクティス)
- 第一優先:誘引源の徹底管理(ゴミ/落果/飼料)
- 第二優先:物理的障壁(防獣ネット・電気柵・頑丈な保管庫)
- 第三優先:警報・照明の導入
- 人感ライト+点滅フラッシャー+音(ラジオ・録音音声)を組み合わせると短期的な抑止力は高まる。
- 常に情報共有:自治体の出没情報を確認、目撃は速やかに通報する。
6) 注意点・落としどころ
- 光は万能武器ではない:光に慣れた個体・餌に強く惹かれる個体は光を無視する。
- 環境負荷:強い常時照明は昆虫の大量発生や電力消費、近隣住民への迷惑になる可能性あり。
- 安全第一:光で「安心した」と思って夜間に不用意に出歩くのは危険。光は「補助手段」でしかない。
7) まとめ(短く)
- 明り・光は「クマを確実に避けさせる」ものではなく、条件によっては遠ざけ、あるいは間接的に誘引することもある。
- 最も有効なのは餌の管理(誘引源の排除)と物理的な防護(電気柵等)。光はそれらを補う“二次的”なツールとして使うのが現実的かつ安全です。


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